相続関連

失敗しない家族信託の利用方法

家族信託
Nose Kohei

家族信託とは?

概要

家族信託とは、財産管理の一つの手法で、財産の所有者が信頼できる家族に不動産や金銭などの財産を託し、その管理・処分を任せることができる契約です。この制度は、特に親が認知症になった場合など、資産が凍結されることなく、子どもが財産の管理や運用、処分を行うことができるようにするために有効です。

家族信託の基本的な登場人物は、「委託者」、「受託者」、「受益者」の3者です。委託者は財産を信託する人、受託者は財産の管理運用処分を任される人、受益者は財産権を持ち、財産から利益を受ける人です。通常、家族信託では親が委託者であり受益者となり、子が受託者となることが多いです。

背景

家族信託制度が制定された背景には、いくつかの要因があります。大正11年に信託法が成立して以来、家族信託は長い歴史を持っていますが、近年注目されるようになったのは以下のような理由によります。

  1. 成年後見の問題: 認知症などにより判断能力が低下した高齢者の財産管理や遺産承継を行う制度として、信託という仕組みへの期待が高まりました。
  2. 相続の問題: 遺言書の書き換えなどによる相続トラブルを防ぐため、より柔軟な財産管理が求められていました。
  3. 高齢社会の進展: 急速に進む高齢化社会において、老後の資産管理や相続対策として家族信託へのニーズが高まっています。
  4. 信託法の改正: 2006年の信託法改正により、家族信託がより実用的なものとなり、多くの人々にとって利用しやすい制度になりました。

これらの背景を受けて、家族信託は現代のさまざまな課題を解決できる便利な手法として注目され、利用されるようになりました。家族信託は、特に認知症対策や相続争いの防止など、個人や家族にとって重要な問題を解決するための有効な手段となっています。

家族信託を利用する手順

家族信託を利用する手順は以下の通りです:

  1. 目的の明確化: まず、家族信託を設定する目的を明確にします。資産管理、相続対策、認知症対策など、具体的な目的を考えましょう。
  2. 専門家の相談: 弁護士や税理士などの専門家に相談し、家族信託の設定についてアドバイスを受けます。専門家は法的な観点から適切な手続きを案内してくれます。
  3. 信託契約書の作成: 専門家の指示に従って、信託契約書を作成します。契約書には委託者、受託者、受益者の情報、信託の目的、財産の詳細などが含まれます。
  4. 信託財産の移転: 家族信託を設定するために、信託財産(不動産、金銭、株式など)を信託契約に基づいて移転します。
  5. 登記手続き: 不動産を信託に移す場合、登記手続きを行います。これにより、信託財産の所有権が受託者に移ります。
  6. 信託の運用: 受託者は信託財産を適切に管理・運用します。委託者の意向に従って、財産を増やしたり、相続対策を行ったりします。
  7. 信託の解除: 信託の目的が達成された場合や、委託者の意向により、信託を解除することがあります。

家族信託を設定する際には、専門家のアドバイスを受けながら、適切な手続きを行うことが重要です。

家族信託のメリットとデメリット

メリット

  1. 財産管理の自由度: 認知症などで判断能力が低下した場合でも、事前に設定された家族信託により、財産の管理や処分がスムーズに行えます。
  2. 成年後見制度の代替: 成年後見制度に比べて手続きが簡単で、家族が直接財産管理を行えるため、より柔軟な対応が可能です。
  3. 遺言の機能: 家族信託には遺言のような効果があり、財産の承継者を指定できるため、相続時のトラブルを防ぐことができます。
  4. 不動産の共有回避: 兄弟間で不動産を共有するリスクを避け、一人(受託者)が管理することで、より効率的な財産運用が可能になります。

デメリット

  1. 公平性の問題: 受託者が一方的に財産を管理するため、他の家族メンバーとの間で不公平感が生じる可能性があります。
  2. 節税効果の限界: 家族信託は節税対策としての効果が限定的であるため、大きな節税効果を期待することは難しいです。
  3. 税務手続きの複雑化: 信託財産からの収入に対する税務申告が複雑になり、手間がかかることがあります。
  4. 専門家の不足: 家族信託に精通した専門家が少ないため、適切なアドバイスを受けるのが難しい場合があります。

家族信託を利用する際には、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、家族間での合意形成や専門家との相談を通じて、適切な信託契約を結ぶことが重要です。

家族信託を利用する際の注意点と対策

家族信託を利用する際の注意点と対策は以下の通りです:

注意点

  1. 受託者の負担: 受託者には財産管理の重大な責任があり、その負担が大きいことを理解しておく必要があります。
  2. 損益通算の制限: 信託財産からの損失は、信託財産以外の所得と損益通算できないため、税務上の不利益が生じる可能性があります。
  3. 専門家の選定: 家族信託は比較的新しい制度であり、熟練した専門家が少ないため、適切なアドバイスを受けることが重要です。
  4. 身上監護の欠如: 信託では身上監護権がないため、受託者が本人の入院手続きや施設入所手続きを行うことはできません。

対策

  1. 信託内容の工夫: 信託財産を限定したり、信託契約をシンプルにすることで、受託者の負担を軽減できます。
  2. 受託者への報酬設定: 受託者に適切な報酬を設定することで、負担に見合ったインセンティブを提供し、受託者のモチベーションを保つことができます。
  3. 信託監督人の設定: 信託監督人を設定することで、受託者の監督とサポートを行い、受託者の負担を軽減できます。
  4. 専門家との連携: 税務申告や法的手続きに関しては、専門家と連携し、適切なアドバイスを受けることが重要です。

家族信託を利用する際には、これらの注意点を踏まえ、専門家と十分に相談しながら、家族の状況に合わせた最適な信託契約を結ぶことが重要です。

家族信託にかかる費用

家族信託にかかる費用は、手続きを自分で行う場合と専門家に依頼する場合で異なります。以下は一般的な費用の目安です:

  • 自分で手続きを行う場合: 約20万円前後が目安です。
  • 専門家に依頼する場合: 約30〜60万円前後が一般的な費用の範囲です。ただし、信託契約書の作成だけを専門家に依頼した場合は、10万円〜30万円の範囲で変動することがあります。

これらの費用には、信託契約書の作成、コンサルティング、不動産が信託財産に含まれる場合の登記手続きなどが含まれます。また、信託契約書を公正証書で作成する場合は、公証人の費用が別途3万円から10万円程度かかることもあります。

家族信託を検討する際には、これらの費用を考慮に入れつつ、専門家と相談して最適なプランを立てることが重要です。また、信託財産の種類や量、家族の状況によっても費用は変動するため、具体的な見積もりを取りましょう。

費用を抑えるためには?

家族信託の費用を抑えるためには、いくつかの方法があります。以下に主な方法を紹介します:

  1. 信託契約書の自作: 専門家に依頼せずに自分で信託契約書を作成することで、作成料を節約できます。
  2. 公証人費用の節約: 公正証書ではなく、一般の書面(私署証書)で信託契約書を作成することで、公証人費用を節約できます。
  3. コンサルティング料の節約: 必要最低限のコンサルティングにとどめるか、専門家に依頼せずに自分で情報を集めることで、コンサルティング料を抑えることができます。
  4. 登録免許税の節約: 不動産が信託財産に含まれる場合、登録免許税の節約も検討できます。
  5. 司法書士報酬の節約: 司法書士に依頼する手続きを自分で行うことで、報酬を節約できます。

これらの方法を検討する際には、信託契約の内容が適切であることを確認するためにも、最終的には専門家のチェックを受けることをお勧めします。また、信託契約書の作成や不動産の登記など、法的な知識が必要な手続きは、専門家に依頼することでトラブルを避けることができます。費用を抑えることも大切ですが、信託の目的を達成するためには正確な手続きが必要ですので、バランスを考えながら進めましょう。

家族信託の成功例と失敗例

家族信託に関する成功例と失敗例をご紹介します。

成功例

  1. 高齢者施設への入居と自宅の維持: 85歳の母親が施設に入居しながら自宅を維持できるように、息子を受託者とする家族信託を設定しました。これにより、母親は施設に入居後も自宅に戻って過ごすことができ、意思判断能力が低下しても息子が不動産を処分することが可能になりました。
  2. マンション建築の継続: 90歳の父親が所有する土地にマンションを建築中に、父親の意思判断能力が喪失しても、孫を受託者とする家族信託により建築と賃貸借契約が継続できました。
  3. 一族の資産流出回避: 父親が亡くなった後も長男夫婦が現在の土地で暮らし、その後は孫に継承されるように受益者連続型の信託契約を締結しました。

失敗例

  1. 親族仲の悪化: 家族信託を進める際に、家族間での十分な話し合いがなく、信託契約により親族間の関係が悪化するケースがあります。
  2. 信託できない財産: 農地や預貯金口座など、家族信託できない財産を対象にしてしまい、信託契約が効果を発揮しない場合があります。
  3. 高額な税金の発生: 家族信託契約により、予期せぬ高額な税金が発生することがあります。例えば、他益信託となり贈与税がかかる場合や、信託財産の登記に際して登録免許税がかかる場合などです。

これらの例は、家族信託を検討する際の参考になるでしょう。

まとめ

家族信託の設定には、信託の目的や対象財産、期間などを明確にするための家族間での話し合い、必要書類の準備、信託契約書の作成など、複数のステップがあります。これらの手続きには時間と労力がかかるため、専門家に依頼することでスムーズに進めることができます。

遺言・相続専門の当行政書士事務所では、街の身近な法律家としてお客様に寄り添い「安心」「丁寧」なサポートを心がけております。遺言・相続にお悩みの方、家族信託をご検討中の方はお気軽にお問合せくださいませ。

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相続・空き家の専門家
野瀬 航平
野瀬 航平
株式会社アンモライト代表取締役/ノア行政書士事務所代表
1995年3月生。中学校教員を勤めた後、学生時代のアルバイト先へUターン。日本一のカラオケ企業を志すも失敗。▶不動産業で再スタートし、大手賃貸仲介・管理会社から、士業連携の売買仲介・コンサル会社を経て起業。▶相続放棄された地方の空き家を再生し、利回り30%で運用中。■保有資格: 行政書士/宅地建物取引士/FP2級/賃貸不動産経営管理士 ■第35回SASUKE出場
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