「配偶者短期居住権」を活用する際に押さえるポイント
配偶者短期居住権とは?
配偶者短期居住権の概要
配偶者短期居住権は、相続開始時に自動的に発生する権利で、亡くなった配偶者が所有していた自宅に、一定期間無条件かつ無償で住み続けることができる権利です。この権利は、遺言や遺産分割協議によって権利を設定する必要はありません。
配偶者短期居住権が制定された背景
配偶者短期居住権は、相続が開始された後も配偶者が安心して居住建物に暮らせるように、一定期間の居住権を認めた制度です。この制度は、相続における問題点に対応するために創設されました。具体的には、以下のような背景があります:
- 遺産分割による居住建物の帰属問題: 配偶者が住み慣れた家に長年暮らしていた場合、被相続人が亡くなったことで相続が開始され、遺言で居住建物を第三者に遺贈していたり、遺産分割協議で配偶者以外の相続人が建物を相続したような場合、配偶者は居住建物から退去しなければならない状況が生じていました。
- 高齢化社会における配偶者の保護: 配偶者が高齢であり、新居を探すのが精神的にも体力的にも困難な場合が多く、遺された配偶者の居住権を保護する必要性が高まっていました。
- 相続争いの防止: 長寿社会や相続争いの防止といったニーズに対応するため、2020年4月施行の民法改正で配偶者短期居住権が設定されました。
これらの背景により、配偶者短期居住権は、配偶者が無償で居住建物を使用できる権利として、一定の期間保護されるものとして制定されました。
配偶者短期居住権と配偶者居住権の違い
配偶者短期居住権と似た権利に「配偶者居住権」がありますが、主な違いは以下の通りです。
- 発生の条件: 配偶者短期居住権は自動的に発生しますが、配偶者居住権は遺産分割協議、遺言、死因贈与契約などによってこの権利が与えられます。
- 期間制限: 配偶者短期居住権には期間の制限がありますが、配偶者居住権は設定されなければ、配偶者が生きている間存続します。
- 対象の部分: 配偶者短期居住権は居住部分だけが対象ですが、配偶者居住権は建物全体が対象になります。
- 登記の可否: 配偶者居住権は登記が可能ですが、配偶者短期居住権は登記できません。
- 相続税の課税: 配偶者短期居住権は相続税の課税対象外ですが、配偶者居住権は課税対象になります。
配偶者短期居住権の手続き
- 遺産分割協議または遺言の設定:
- 配偶者短期居住権は、遺産分割協議または遺言によって設定されます。
- 遺産分割協議では相続人全員が合意を得て設定します。
- 遺言書に記載する場合は、公正証書遺言または遺言書保管所で保管されている自筆証書遺言を作成します。
- 登記の手続き:
- 配偶者短期居住権を正当に主張するためには、法務局で登記を行う必要があります。
- 登記設定を受けた被相続人の配偶者は、建物所有者に対して配偶者短期居住権の登記を請求できます。
- 登記手続きは、建物の所在地を管轄する法務局または地方法務局で行います。
配偶者短期居住権のメリット
配偶者短期居住権のメリットは、主に以下の点です:
- 自動的に設定される: 遺産分割協議や遺言書、死因贈与などで設定する必要がなく、要件を満たせば自動的に発生します。
- 相続税の非課税: 配偶者短期居住権の価値はゼロとされるため、相続税が課税されません。
- 期間の保障: 配偶者は、最低でも相続開始から6ヶ月間は住み慣れた自宅に無償で住み続けることができます。
- 生活の安定: 配偶者が亡くなった後、すぐに住居を失うことなく、次の住まいや生活計画を考える時間を確保できます。
これらのメリットにより、配偶者短期居住権は、遺された配偶者が一定期間、安心して住み続けることを可能にし、生活の安定や将来計画を立てる上での負担を軽減します。
配偶者短期居住権のデメリット
配偶者短期居住権にはいくつかのデメリットがあります。主なものは以下の通りです:
- 期間が限定されている: 権利を行使できる期間に制限があり、通常は相続開始から6ヶ月間です。この期間が過ぎると、権利は消滅し、住宅から出る必要があります。
- 収益権がない: 居住部分の権利のみであり、建物から収益を得る権利は含まれていません。
- 登記ができない: 配偶者短期居住権は登記することができず、第三者に対抗することができないため、建物が売却された場合に立ち退きを求められる可能性があります。
- 必要費用の負担: 固定資産税や修繕費など、家を維持管理するうえで通常発生する費用は配偶者の負担になります。
これらのデメリットを理解し、配偶者短期居住権を適切に利用することが重要です。
配偶者短期居住権の注意点と対策
注意点
- 期間の制限: 配偶者短期居住権は、相続開始から6ヶ月間、または遺産分割により建物の相続人が決まった日のどちらか遅い日までの期間限定であり1、この期間が過ぎると権利は消滅します。
- 収益権の欠如: この権利は居住部分のみに適用され、建物から収益を得る権利は含まれていません。
- 登記の不可: 配偶者短期居住権は登記できないため、第三者に対抗することができません。そのため、建物が売却された場合に立ち退きを求められる可能性があります。
- 必要費用の負担: 配偶者は居住建物の必要費用(修繕費や固定資産税など)を負担しなければなりません。
対策
- 期間内に次の住居を確保: 配偶者短期居住権の期間内に新しい住居を探し、引っ越しの準備をする。
- 遺産分割協議の活用: 遺産分割協議を通じて、配偶者居住権の設定や他の相続財産の分配を交渉する。
- 法的アドバイスの取得: 法律の専門家からアドバイスを受け、配偶者短期居住権の行使や遺産分割に関する対策を講じる。
- 費用の計画: 修繕費や固定資産税の支払いに備え、財政計画を立てる。
これらの注意点と対策を理解し、配偶者短期居住権を適切に利用することが重要です。
配偶者短期居住権の具体例
配偶者短期居住権の具体例をご紹介します。この権利は、配偶者が亡くなった際に、遺された配偶者が一定期間、亡くなった配偶者が所有していた自宅に無償で住み続けることができる権利です。以下に、その具体例を示します。
具体例1: 遺産分割協議が成立するまでの居住
配偶者Aは、亡くなった配偶者Bが所有していた自宅に居住していました。遺産分割協議が成立するまでの間、Aは自宅に無償で住み続けることができます。この期間は、相続開始から6ヶ月間、または遺産分割により自宅の相続人が決まるまでのどちらか遅い日までとされています。
具体例2: 遺言による自宅の相続指定
配偶者Cは、亡くなった配偶者Dの遺言により、自宅不動産を長男に相続させると記載されていました。Cには自宅に強いこだわりがなく、Dの意思を尊重して長男に自宅を明け渡す意向ですが、法要などで忙しく、すぐに引っ越しをする余裕がありません。この場合、Cは遺産分割が成立するまで、または相続開始から6ヶ月間、自宅に無償で居住することが認められます。
これらの例は、配偶者短期居住権がどのような状況で活用されるかを示しています。実際の遺産分割では、家族の状況や相続人の意向に応じて、さまざまな方法で配偶者短期居住権が活用されることがあります
まとめ
配偶者短期居住権は、配偶者が亡くなった際に、遺された配偶者が自宅に一定期間無条件かつ無償で住み続けることを保証する権利です。この権利は、遺産分割協議がまとまるまで、または協議が早くまとまった場合でも、被相続人が亡くなってから6ヶ月間は無償で建物に住み続けることができます。配偶者居住権とは異なり、配偶者短期居住権は自動的に発生し、期間の制限がありますが、相続税は課税されません。配偶者が亡くなった際には、この権利を活用することで、今後の生活計画を立てるための時間的余裕を確保することができます。
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